ヒルナンデスが好きだ
最近嫌なニュースが多い。Twitterやネットニュースで嫌という程見ている情報なのに、テレビを付けるとそれをおさらいする羽目になる。誰が好きこのんで殺人犯のプロフィールを知りたがるというんだ。見たところで心に擦り傷がひとつ増えるだけだ。
その点ヒルナンデスはいい。12時から2時までずっと、決して中身のない話が流れ続けている。しかも決して飽きさせないように、小刻みにコーナーを変えながら。
かの番組は視聴者に「視聴」という概念だけを植え付けて跡を一切残さない。
どうかその虚無感を共有させてほしい。
たとえば料理コーナー。「料理の超キホン検定」という題のコーナーで、以下のようなクイズが出される。
お料理をしていても「そう言われるとどうだっけ?」と思う 基本中の基本知識を楽しくクイズで学ぶコーナー! Q1【片栗粉と小麦粉】 ①鶏の唐揚げを、カリッとした食感に揚げたいとき使うのは、 片栗粉である。○か×か? 答え:○ ②あんかけのあんを作るとき、片栗粉がないとき代わりに 水溶き片栗粉でも代用できる。○か×か? 答え:× ③春巻きの皮を巻くとき、ノリ代わりとして使う小麦粉がないとき代わりに 水溶き片栗粉でも代用できる。○か×か? 答え:○ Q2【天ぷら】 アク抜きに関する問題 ①サクサクの衣を作るには・・・Aぬるま湯 B氷水 C常温の水 答え:B.氷水 ②エビに切り込みを入れる場所は・・・A背中 B脇 Cお腹 答え:C.お腹 ③衣をつける前にやると剥がれにくくなるのは・・・ A塩をふる B軽くもむ C小麦粉をまぶす 答え:C.小麦粉をまぶす Q3【家庭の定番料理、何を作っているか答えなさい】 答え:茶碗蒸し Q4【ある食材の調理の様子、何をしているのか答えなさい】 答え:アボカド Q5【ロールキャベツ】 ①肉を包むキャベツは・・・A生のもの B加熱したもの 答え:B.加熱したもの ②タネを包むとき、キャベツの向きは・・・A芯のほうから B葉のほうから 答え:A.芯のほうから ③ロールキャベツの鍋の入れ方は・・・A隙間がないように B間隔を空けて並べる 答え:A.隙間がないように Q6 【煮干しのダシ】 ①3つの間違っている工程は? 行程① 煮干しは頭だけ取り除く 行程②水を沸騰させたところで煮干しを入れる 行程③煮立つとアクが浮いてくるが取り除かずにそのまま煮立ててよい 行程④2分ほど煮立てて、厚めのペーパータオルを敷いたザルなどでダシをこす 答え:①・②・③
以上の6問だ。難易度や、正解/不正解はこの際どうでもいい。クイズとしての価値など、月曜ゲストの藤田ニコルの前には些事だ。僕の心を掴んだのは、このコーナーに30分かけているという事実だ。これ以外の情報は、なにもない。ただ淡々と、キッチンでの収録の様子が放映されている。
たいていのワイドショーの中心企画であるグルメレポも、ヒルナンデスの手にかかればあっという間に虚無に早変わりだ。普通の番組ならVTRでタレントが食レポをして、その中の1つか2つをスタジオにお持ちしました……といった流れだが、ヒルナンデス1は一味違う。
食レポされたスイーツがスタジオに持ち込まれるところまでは同じだが、南原の一行は唐突にあみだくじを始める。なんと「一人だけスイーツの断面を見られない」というルールが存在し、しかもその見られない人物をその場で決めているのだ。
平日の真昼間。裏番組ではニュースに対する行き場のない議論がなされているそのときに、日本テレビは、貴重な貴重な地デジの電波を使ってスイーツを見られない人物を決めている。そこに報道はない。そこに怒りはない。そこに苦しみはない。
ただ、目隠しされる南原清隆とほんの少しのお得情報だけがある。
そういう、味がなくて食感だけがあるような、瞑想にも似た奇妙な浮遊感を伴う情報を目から取り入れているときに、僕の思考は止まり、雑念が消え、自分の心がゆっくり癒やされていくのを感じてしまう。
ヒールナンデスってか。