開け閉め

力強く閉めると反動で数センチ開く

腕時計

自分に声をかけてくる人間をすべからく捕食者(Predator)だと思っているのでインタビューには応じないスタンスでいる。

万一インタビューを頼まれても「急いでるんで」と答えて、街並みをキョロキョロ見回して「今日渋谷に初めて来た人」感を醸しながらやや早歩きで立ち去ったりする。あと心の中で「急がなきゃ……」と一心に唱えて罪悪感を軽減する試みもやっている。

二限が終わり、暇なので駒場から渋谷まで歩いて帰ろうと思っていたら、駅の前でインタビューを依頼された。いつもなら毅然とした態度で「あ、すいません、いそ、急いでるんで、あ、すいません」ときっぱり断れるのだが、その日は「まさに今、暇を潰そうとしている」という現行犯であったためなんとなくインタビュアーにも罪悪感にも嘘がつけず、無駄な抵抗をせずにおとなしく捕食されることにした。アーメン。

捕食者は「大学のサークルで調査をしていまして、名前と学年、科類を教えて頂けますか」と聞いてきた。手にはiPhoneのメモアプリ(白紙)。長くなる予感がした。

学年を間違えて2年生と言ってしまうミスはあったもののいちおう質問に答えつつ、”武器”を探す。プレデターと戦うには武器が必要なのだ。ポケットに手を突っ込み、腕時計を取り出した。

笑顔で受け答えしながら、ゆっくり腕時計をつける。"腕時計を見る"というコミュニケーション・破壊行為をちらつかせる。「きょうもちゃんと人と話せた」という自尊心を巻き込んで破壊する自爆スイッチ、それを持ち出すという無言の宣戦布告。この戦い<Communication>、負けるつもりは、ない。

 

 

インタビュー、普通に面白い内容だったので腕時計は1度も見ずに最後まで受け答えしました。インタビュアーのメモも結構埋まってた。腕時計は、インタビューが終わってちょっと歩いたあとポッケにしまった。ずっとつけてると手首痛くなるから。そういうギリギリのところを生きています。