ヒルナンデスが好きだ
最近嫌なニュースが多い。Twitterやネットニュースで嫌という程見ている情報なのに、テレビを付けるとそれをおさらいする羽目になる。誰が好きこのんで殺人犯のプロフィールを知りたがるというんだ。見たところで心に擦り傷がひとつ増えるだけだ。
その点ヒルナンデスはいい。12時から2時までずっと、決して中身のない話が流れ続けている。しかも決して飽きさせないように、小刻みにコーナーを変えながら。
かの番組は視聴者に「視聴」という概念だけを植え付けて跡を一切残さない。
どうかその虚無感を共有させてほしい。
たとえば料理コーナー。「料理の超キホン検定」という題のコーナーで、以下のようなクイズが出される。
お料理をしていても「そう言われるとどうだっけ?」と思う 基本中の基本知識を楽しくクイズで学ぶコーナー! Q1【片栗粉と小麦粉】 ①鶏の唐揚げを、カリッとした食感に揚げたいとき使うのは、 片栗粉である。○か×か? 答え:○ ②あんかけのあんを作るとき、片栗粉がないとき代わりに 水溶き片栗粉でも代用できる。○か×か? 答え:× ③春巻きの皮を巻くとき、ノリ代わりとして使う小麦粉がないとき代わりに 水溶き片栗粉でも代用できる。○か×か? 答え:○ Q2【天ぷら】 アク抜きに関する問題 ①サクサクの衣を作るには・・・Aぬるま湯 B氷水 C常温の水 答え:B.氷水 ②エビに切り込みを入れる場所は・・・A背中 B脇 Cお腹 答え:C.お腹 ③衣をつける前にやると剥がれにくくなるのは・・・ A塩をふる B軽くもむ C小麦粉をまぶす 答え:C.小麦粉をまぶす Q3【家庭の定番料理、何を作っているか答えなさい】 答え:茶碗蒸し Q4【ある食材の調理の様子、何をしているのか答えなさい】 答え:アボカド Q5【ロールキャベツ】 ①肉を包むキャベツは・・・A生のもの B加熱したもの 答え:B.加熱したもの ②タネを包むとき、キャベツの向きは・・・A芯のほうから B葉のほうから 答え:A.芯のほうから ③ロールキャベツの鍋の入れ方は・・・A隙間がないように B間隔を空けて並べる 答え:A.隙間がないように Q6 【煮干しのダシ】 ①3つの間違っている工程は? 行程① 煮干しは頭だけ取り除く 行程②水を沸騰させたところで煮干しを入れる 行程③煮立つとアクが浮いてくるが取り除かずにそのまま煮立ててよい 行程④2分ほど煮立てて、厚めのペーパータオルを敷いたザルなどでダシをこす 答え:①・②・③
以上の6問だ。難易度や、正解/不正解はこの際どうでもいい。クイズとしての価値など、月曜ゲストの藤田ニコルの前には些事だ。僕の心を掴んだのは、このコーナーに30分かけているという事実だ。これ以外の情報は、なにもない。ただ淡々と、キッチンでの収録の様子が放映されている。
たいていのワイドショーの中心企画であるグルメレポも、ヒルナンデスの手にかかればあっという間に虚無に早変わりだ。普通の番組ならVTRでタレントが食レポをして、その中の1つか2つをスタジオにお持ちしました……といった流れだが、ヒルナンデス1は一味違う。
食レポされたスイーツがスタジオに持ち込まれるところまでは同じだが、南原の一行は唐突にあみだくじを始める。なんと「一人だけスイーツの断面を見られない」というルールが存在し、しかもその見られない人物をその場で決めているのだ。
平日の真昼間。裏番組ではニュースに対する行き場のない議論がなされているそのときに、日本テレビは、貴重な貴重な地デジの電波を使ってスイーツを見られない人物を決めている。そこに報道はない。そこに怒りはない。そこに苦しみはない。
ただ、目隠しされる南原清隆とほんの少しのお得情報だけがある。
そういう、味がなくて食感だけがあるような、瞑想にも似た奇妙な浮遊感を伴う情報を目から取り入れているときに、僕の思考は止まり、雑念が消え、自分の心がゆっくり癒やされていくのを感じてしまう。
ヒールナンデスってか。
りょうくんグルメの文体を自動でもとに戻すやつを作りました
りょうくんグルメをご存知だろうか。知らなくても、本人のツイートの雰囲気は料理のレシピなんかで一度は見た文脈のはずだ。
こんなやつ。
「りょうくんグルメ」は文章が情報量に対してやたら長いので、pythonの練習も兼ねてアイデンティティである上から目線の構文を取り去ることにした。逆りょうくんグルメである。まじでこの世の全てのタピオカ好きに教えてあげたいんだが新宿三丁目のceleb縁味には全ての人間を虜にする禁断のオレオミルクフォームがある。
— りょうくんグルメ (@uryo1112) 2019年6月15日
これが濃厚黒糖で超絶美味いからぜひ全国のタピオカ好き、タピオカを愛する者たち、タピオカを憎む者たち、全てのタピオカ関係者に伝われ pic.twitter.com/wnnPvkJ2pr
手順は大雑把に分けて以下の3ステップ。
1. Twitterからりょうくんグルメのツイートをスクレイピングする
2. 取得したツイート文から本質を抽出する
3. 生成した文をTwitterに投稿する
とりあえず、実装が簡単そうな2から作ってみる。
取得したツイート文から本質を抽出
りょうくんグルメのツイートは、そのアイデンティティとも言える独特な言い回しが特徴的。実際のツイートはこんな感じ。
りょうくんグルメ🥞🍽🍓@uryo1112
まじでこの世の全てのお肉好きに教えてあげたいんだが 神保町のグリルグリラーグリレストのランチには全ての人間を虜にする 禁断のローストポークステーキ(¥950)がある。
これが分厚い肉塊で超絶美味いからぜひ全国のお肉好き、 お肉を愛する者たち、お肉を憎む者たち、全てのお肉関係者に伝われ
まじでこの世の全てのプリン好きに教えてあげたいんだが 渋谷のWHITE GLASS COFFEEには全ての人間を虜にする 禁断の濃厚プリンがある。
これがかためのぶるんぶるんで超絶美味いからぜひ全国のプリン好き、 プリンを愛する者たち、プリンを憎む者たち、全てのプリン関係者に伝われ
まじでこの世の全てのタピオカ好きに教えてあげたいんだが浅草の桜っ茶には全ての人間を虜にする禁断のさくらラテがある。
これが優しい甘さで超絶美味いからぜひ全国のタピオカ好き、タピオカを愛する者たち、タピオカを憎む者たち、全てのタピオカ関係者に伝われ
……想像以上にワンパターンだった。たとえば真ん中のプリンの文から要らない情報を消してみよう。
あらら、全部消えちゃった。
……みたいなトンチはともかく、共通と思しき箇所をすべて取り除くと
- プリン(食べ物の種類)
- 渋谷
- WHITE GLASS COFFEE
- 濃厚プリン(商品名)
- かためのぶるんぶるん
だけが残る。なんと「禁断の」は全ツイートで共通であった。禁じすぎである。寛政の改革か?
ちなみに後半の
「全国の〇〇好き、〇〇を愛する者たち…」という部分の〇〇は、最初の文の
「まじでこの世のすべての〇〇好き…」の〇〇と一致している。
というわけで以上の情報を盛り込むと
渋谷のWHITE GLASS COFFEEにある濃厚パフェがかためのぶるんぶるんである
となろう。こういう文章を生成するプログラムを作る。 なお、「美味い」や「オススメ」等の文言は盛り込まず、事実を述べるに留めることとした。 捨象したツイートに釣られて実際に店行って被害を被っても責任は取れないので。
さて、実際にpythonへ起こしていく…といっても、これは正規表現で一発なんじゃないか?
import re import sys def ParseRyoukun(Text): Ryou = re.compile( r"まじでこの世の全ての(.+)好きに教えてあげたいんだが(.+)の(.+)には全ての人間を虜にする\s*禁断の(.+)がある。\s*これが(.+?)[がで(くて)]*超絶美味いからぜひ全国の(.+)好き、(.+)を愛する者たち、(.+)を憎む者たち、全ての(.+)関係者に伝われ(.*)$" )#最後の(.*)はurl等を拾うため m = Ryou.match(Text) if m is None: return("NotGourmet") food,shop_loc,shop_name,menu,reason,*others = [ m.group(i) for i in range(1,9) ] if food in menu: return(f"{shop_loc}の{shop_name}にある{menu}は{reason}である") else: return(f"{shop_loc}の{shop_name}にある{menu}({food})は{reason}である")#商品名から食べ物の種類が分かりづらい時 if __name__ == "__main__": T = "".join(sys.stdin.readlines())#りょうくんグルメのテキスト print(ParseRyoukun(T))
一発だった。
先にあげた例からわかるように、りょうくんグルメには「パフェ」と「濃厚パフェ」のように食べ物の種類と商品名がカブっているツイートと、「タピオカ」と「さくらラテ」のように商品名から食べ物の種類を判断しづらいツイートとがある。そこで、後者の場合は両方を併記するように条件分岐をつけた。
のちにスクレイピングした情報を入力することを踏まえて、抽象化の処理は入出力の処理と切り分けて関数に分ける。ここにりょうくんグルメのツイート文を入力すれば概念を生成してくれるはず。
りょうくんグルメのツイートをスクレイピング
次は1のスクレイピング(webサイトからデータを取ってくること)だ。とはいえ、Twitterのサーバーから直接ツイートを取得しようとすると全ての人間を虜にする禁断の審査を10日以上かけてパスしないといけなくて超絶まずいらしいので、りょうくんグルメのTwilogからデータを取得することにする。Twilogのアカウントがあるわけではないので最新100件のツイートになるが、まあ十分だろう。
探したらBeautifulSoupとかいう良さげなツールがあったので、ツイログからツイートとurlをぶっこ抜いてテキストファイルに保存するプログラムを組んでみる。
import requests from bs4 import BeautifulSoup def GetTwilog(AccountName): url= "https://twilog.org/"+AccountName Twiloghtml = requests.get(url) soup = BeautifulSoup(Twiloghtml.text,"html.parser") Tweets = soup.find_all("article",class_ = "tl-tweet") with open(f"{AccountName}_Tweet.txt",encoding = "utf-8" ,mode = "w") as f: for i in Tweets: url = i.find("p",class_ = "tl-time").find("a").get("href") text = i.find("p",class_ = "tl-text").text f.write(url+"\t"+text+"\n") print("Done") if __name__ == "__main__": GetTwilog(input())
案外普通にできた。IDを入力すれば、こんな感じに任意のユーザーのツイートがurlとともに取得できる。 なお、さっき作ったParseRyoukun関数はライブラリとして利用する都合上、多少手を加えている(ターミナルに出力するのではなく、関数の戻り値でテキストを返すようにした)。
このプログラムを使って、りょうくんグルメのツイート情報をテキストファイルにまとめた。
Twitterへの投稿
あとは作ったファイルから本質を抽出して、それを投稿するだけだ。
…とここで、Twitterにテキストを投稿する方法を探したところ、結局API取得のための審査を通過しなければいけないらしい。しぶしぶ必要事項を色々記入したところ、すぐに通過し、APIの使用許可が降りた。10日かかるとは何だったのか。
無事Twitterへアクセスできるようになったので、こんなコードを書く。
import GetTwilog import Ryoukun import twitter import config import time def main(): ConK,ConSK,AccT,AccST = ( config.CONSUMER_KEY, config.CONSUMER_SECRET, config.ACCESS_TOKEN, config.ACCESS_TOKEN_SECRET) t = twitter.Twitter( auth=twitter.OAuth( AccT,AccST,ConK,ConSK )) with open("uryo1112_Tweet.txt",encoding = "utf-8",mode = "r") as f: for row in f: url,text = row.split("\t") Essence = Ryoukun.ParseRyoukun(text) print(Essence) if Essence != "NotGourmet": TweetText = (Essence +" " + url) t.statuses.update(status=TweetText) time.sleep(300) print("Done") if __name__=="__main__": main()
完成
あとはコイツを走らせれば、りょうくんグルメからアイデンティティをすべて奪い去った残骸を得ることができるはずだ。楽しみだ。というか実は6時半くらいからもう動かしていて、5分ごとにつぶやく設定にしたので夜2時頃には100個のツイートをつぶやき終わるはず。 リンクはこちらなのでぜひ見てみてください。 設計が不十分で文章になってないツイートがたまにあるけど、初心者が頑張って書いたプログラムということで大目に見てほしい。
↓こんな感じのツイートができました
しかし作ってみて思ったけど、りょうくんグルメはある種のネットの「構文」を狙って生み出して、それを内容変えて何回もバズらせるというめちゃくちゃ難しいことを狙ってやってたんだなあ。
悪目立ちであっても目立てば「りょうくんグルメの構文」ってことが広まるし、インターネットで生きていくのが超絶上手いからぜひ全国のりょうくんグルメ好き、りょうくんグルメを愛する者たち、りょうくんグルメを憎む者たちに伝われ
池の底から金閣寺が浮いてきて、鼻水が伸びて月まで行くという記憶を未知の勢力に植え付けられています
あ、待って閉じないで。ちょっとだけ事情を聞いてほしい。
本を読まなくなって久しい。高校時代までは授業中にスマホをいじるのは流石にヤバかったから、電子辞書に入ってた青空文庫で日本文学を読んだりしていたが、今になってしまえばそんな制約もない。青空文庫じゃなくて現代の小説は何年間読んでないだろうか。というかそもそも140文字以上のまとまった文章を読んでない気がする。
昔は本が好きだった。小学生の頃なんか、年100冊ペースで小説を読んでたんじゃないだろうか。その頃の自分はスマホなんて当然持ってなかったから、本*1くらいしか娯楽がなかったんだろう。あの頃の、穢れのない自分が恋しい。ただ10年も前のことになると、どんな本を読んでたのかは全く思い出せない。人間の記憶ってそんなもんか。
星新一のショートショートとか東野圭吾のミステリー、重松清の少年野球がどうとかいう本を読んだことはぼんやりと覚えているけど、それ以上思い出そうとすると思考に変なノイズが入る。タイトルの通り、「池の底から金閣寺が浮いてきて、鼻水が伸びて月まで行く」本があったような気がして仕方ないのだ。
もっと詳しく言うと、
・たぶんSF
・地元の悪ガキが数十年前に池に金閣を沈め、その起動スイッチを電柱の一番上に取り付ける
・それを起動すると金閣寺が池の底から浮いてくる
・金閣寺の中に入ると、天井には星空が広がっている
・ある一地点に立つと天井の星から汽車が走ってきて出られる
という趣旨。自分で書いていてもマジで意味がわからないが、僕の中の小学生は「これを読んだ」と力説している。金閣を沈めるって何なんだ。冗談じゃない。こんな小説あってたまるか、と思いながらも内なる小学生は更にこんなあらすじの断片を語る。ちなみに内なる小学生はクラスで一番スマブラが強い。ただし街一番とかでは決してない。あくまでそのくらいのスケール感の人生である。
・上記のイベントを経て、主人公とその友達は鼻水が無限に伸びる力を得る
・鼻水を伸ばして月まで行こうとする(動機は不明)が、鼻水が足りないのでホースで水を飲みながら鼻水を伸ばす
・ずっとヘルメットをかぶっていた村長の娘が、実はウサギ型宇宙人だった
以上である。ずっと脳内にこんな詳細不明の記憶がこびりついている側の気持ちになってほしい。迷惑しています。
どうにかこの記憶の正体を明らかにしたいので、ダメ元でググってみる。
三島由紀夫の金閣寺が出てきた。鼻水を無視するとはいい度胸だな
他にも「金閣 鼻水」や「児童SF 鼻水」で検索をかけてみても一向にヒットせず。やっぱり記憶は捏造なのか…?
良さげな掲示板を見つけたが…
この有様。もう30分くらい探してる気がする。
そういえば、あの頃の自分って新しい
ことが大好きだったんだな。小説も映画も「なんか疲れる」っつって敬遠してる今の自分は、小学生時代の僕が羨ましいのかもしれない……
小学生の頃の自分に思いを馳せながらGoogleと格闘することおよそ1時間…
ついに
見つけた!!!!!!!!!!*2
タイトルは『夏休みは、銀河!』。うさぎ星人じゃなくてパンダだったらしい。
少々時間がかかったものの、案外あっさり決着がついてしまった。こんなもんか。
とはいえ本の名前がわかればやることは1つ。
今度図書館行こう。
ギャラクシー・カルガモにオデッセイ号は狭すぎる
マリオオデッセイおもしれ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あ~~~~~~おもしれ~~~~な~~~~時間を忘れていくらでも遊べるなあ~~~~~~~~~~
あ~~~
あ~
ァ~
・・・
・・・
虚無………不安……孤独…
うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
スーパーマリオオデッセイは、スーパーマリオギャラクシーではありませんでした。オデッセイだけじゃない。3Dランドも。ゼルダBotWも。NewマリオUもルイージUもマリオカート8もギャラクシー2も。
【当記事は、「スーパーマリオギャラクシー」ないし「スーパーマリオギャラクシー」のストーリーの大筋の把握を前提としていますが、遊んでなくても読めます】
【「スーパーマリオオデッセイ」にいちゃもんつけるような文面ですが、オデッセイはマジモンの神ゲーです。世界観もグラもすごいし、どこをどう探索しても絶対に報酬があるし、アクションも絶妙な難易度と達成感があるしで、マジで面白いので買ってください。ちなみに本作における「帽子」の役割は結構いろいろ考えたので後日記事にするかもしれないです。マジでよく出来てるぞこのゲーム。】
スーパーマリオギャラクシーの幻影を追い求めて、任天堂の3Dアクションを買い続けています。幻想的なオーケストラが流れて、でっかい天文台の中を飛び回って、ひとつひとつがバッキバキに個性たっぷりなステージを次々に踏破していくあのゲームは、僕にとって特別なものでした。あれが発売されたのは2007年。その頃の僕は小学校低学年、マリオギャラクシーは人生で初めての3Dアクションゲームだったのです。子ガモが生まれて始めてみた生き物を母親だと認識するように、僕は生まれて初めて遊んだスーパーマリオギャラクシーこそが3Dアクションゲームの完成形だと思っています。ギャラクシー・カルガモとなってしまった僕は、あらゆるゲームをスーパーマリオギャラクシーと比較することしかできません。
しかし、現実は非情。一度遊んでしまったゲームは、もう二度と、「初めて遊ぶ楽しさ」を僕に提供してはくれないのです。
それからというもの、僕はあらゆるゲームにスーパーマリオギャラクシーの面影を求めるようになりました。でも。スーパーマリオギャラクシーを除く全てのゲームは、決してスーパーマリオギャラクシーではなかった*1のです。当たり前ですが。
何がスーパーマリオギャラクシーをスーパーマリオギャラクシーたらしめるかと言えば、「冒険なのに、帰る場所がある」という点なんです。「ほうき星の天文台」。すんげえ穏やかなBGMの下で、でっかい宇宙を漂う、屋根のない幻想的な建造物の中を歩き回っているだけでなんとなく落ち着きます。どんなステージ(ギャラクシー)をクリアしても、必ずここに帰ってこれる。それは僕に「帰る場所があるんだ」という強烈な安心感を与えてくれました。というか、床がないステージなのに落ちたらシャボン玉に入って復帰できますからね。聖地か?ここは -𝑺𝑨𝑵𝑪𝑻𝑼𝑨𝑹𝒀-
しかもこのほうき星の天文台、基本的に「マリオ以外の人間がいない」んですよ。考えてみてください。自分の部屋に知らんやついっぱいいて落ち着けます?ここが本質的に、天文台が「ステージ選択の拠点」として他のゲームと大いに違う点だと思います。星船マリオやハイカラシティ/スクエアはあくまで「職場のオフィス」なのに対し、ほうき星の天文台は「自分の部屋」なんですよね。自分だけの空間で、リラックスしてステージに向かう準備ができるんです。
スーパーマリオギャラクシーのゲームデザインの根っこには「安心感」があるんだと思います。すべてのステージが天文台からアクセスできることも、球形の地形も、「どこに行っても必ず戻ってこれる」という気持ちにさせてくれました。Wiiというハード自体が万人受けすることを目的としていましたから、Wiiのキラーとなるべき本作が、普段ゲームを遊ばないプレーヤーにリーチすることを目的としているのは必然かもしれませんが。
一方、スーパーマリオオデッセイは「驚きと不安」がテーマです。*2そもそも冒険のスタート地点の「帽子の国」自体がクッパの船から振り落とされた先の落下地点。マリオとは縁もゆかりもない地です。さらに次の「滝の国」で拾った船を修理してオデッセイ号と名付け次の国へレッツゴー、そこでパワームーンを集めてさらにその次へ…と繰り返していきます。
怖い。心の支えが、縋れる点が一個もない。あらゆる国で、あらゆる街でマリオは「来訪者」以外の何者でもありません。しかも拠点になるオデッセイ号も、中にはドレッサーと椅子一個しか無いんです。というか…そもそも…一人になりたい時どうすればいいの!?ずっとキャッピーいるじゃん!!
もちろん先に述べたとおりこのゲーム自体がそういった不安感を狙って醸しているのはわかります(し、旅の面白さは不安感に起因するところがあると思います)が、なにせ僕はギャラクシー・カルガモなので、3Dアクションゲームに安心感を求めてしまうんですよね。
さらにマリオオデッセイは、「自我の本質」も的確に突いてきます。まずはこちらをご覧ください。
「カエルをキャプチャーしたマリオ」です。(本作では、マリオが敵キャラなどに帽子を投げつけることによってそのキャラに乗り移ることができます。この間マリオ自身の身体は消滅します)
そうですね、マリオの帽子が「マリオ」を表すアイコンになっているわけです。
次にこちらをご覧ください。
もちろんマリオですね。……あれ?ちょっと待ってください。
帽子がマリオを表しているなら、帽子の下の身体は、何…?
あ、そうか。マリオはキャプチャーするときに、自分の自我をその帽子に移動させているわけですね。それなら納得です。
ところでこの帽子、単体でも自我がありますね。
そう、コイツはキャッピー。帽子の国のニクいやつ。マリオと常に行動をともにする腹心の相棒です。
……あれ!?もう帽子、自我あるじゃん!
なら帽子にあるのはキャッピーの自我であって、カエルがキャッピーをかぶっていて、その間マリオの身体が消えているということは…キャプチャー中…マリオの自我って…消えてる…!!!???
不安!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まあキャッピーはお化けみたいな存在ですし、マリオと二人で一人みたいな存在です。いつもはマリオとキャッピーが力を合わせて冒険しますが、キャプチャーの際はキャッピーにマリオのアイデンティティと能力を預け、いろんな環境に対応できるってことですね。言うなれば、今作でのマリオのきわめて広いアクションの幅は、マリオの身体ではなく帽子、キャッピーの方に「本体機能」があるからこそなせる技なんです。
ところでSwitchも普段はドックと合わせてTVモードにしているとこから単品でガシャって持ち出して、いろんな場所に持っていけますね。ドックではなく液晶の方に本体機能を移すことで遊びの幅をグググっと広げているわけです。
そう、キャッピーはSwitch(本体)でありマリオはドックだったんですね!!!
なんつってな!!!!!!キャピ☆!!!!
[この記事は、盛岡デミタスさん(@M_demitas)のごった煮(仮称) Advent Calendar 2018の12/18分の記事です]
パソコンと手をつなごう
先日就寝時に手を体の下に挟み込んでしまったらしく、翌朝左手の感覚が全くなくなっていて、その手を右手で握ったときに少しドキッとしてしまいました。いい朝ですね。
僕は夏休みという怠惰の満漢全席を貪って特になにもない日々をお送り散らかしていたのですが、偶には外に出てやろうと、大学で所用を済ませた(※本郷での用事だったのだが、一度間違えて駒場に向かった)後に秋葉原でデレマスのARペーパークラフトを貰いに行ったんですよ。そしたら明日から配布ですって言われて。ついでにスマホはデレステのARモードに非対応だったので完全に虚無です。僕もARの存在になったほうがいいんですかね?虚無はいます。虚無でした。
虚無ついでに、ちょっと両手の力を抜いてだらんと下ろしてみてください(スマホから見てる人は片手でいいです)。指、曲がってませんか?
それは、ヒトの手は力を抜いている状態だと「ちょっと指を曲げたパー」くらいの指の開き方になるから。なんか人間が大昔樹上生活をしてた頃に木にぶら下がるためですってね。ついでに、その状態で腕を胸くらいの高さに持ち上げてみると、掌が内側を向いている事がわかります。力を抜くと手は内側を向くんですよ。だから電車のつり革、丸いやつから三角のやつに変わるときに向きが90度変わったんですよね。無理なく持てるように。へぇー。
これは、親密な人と行う行為に如実に現れます。その代表例が握手。「握手をするときの手の形」をしてみると、手首から先のどこにも全く力がかかっていない事がわかると思います。あと手をつないだりも似たような角度になりますね。所謂「恋人つなぎ」とかだと、お互いの手が内側を向いてるんで変に力んでない状態になるわけですね。「体の力を抜く」ってのは、ある意味信頼や愛情の表現手段なのかもしれません。
ところで、貴方の大好きな対象って、どこにありますか?どこで会えますか?
もしそれがインターネット上ならば、会う時にマウスやスマートフォン等によってあなたの手首を不自然にねじり、無意味に緊張させるのはあまりにも嘆かわしいことです。体が弛緩している状態で彼、彼女、あるいは"それ"に会えれば、完全なる愛が伝えられるというのに。
Logicool MX ERGOを買いましょう。まるでインターネットと握手しているかのように、手首を一切ねじらず、一切不要な力を加えずにポインター操作ができます。さらに、MX ERGOはトラックボール式マウスですから、ポインターを動かす時にわざわざ手首を浮かせてマウスを動かす必要すらなくなります。完全なる筋弛緩の楽園で、インターネットを体感しましょう。
インターネットと握手しましょう。
パソコンと手をつなぎましょう。
ちなみに僕はM570tを買いました。トラックボールは初めてだったから失敗が怖いし、なにより1万円はちょっと高かったから。でも大丈夫です。3日もあればすぐ慣れます
競技クイズとファンキーコング
一つ早押しクイズの問題を出そう。実際に出されたやつだ。
問題:グランプリの150CCをすべてクリアすることで開放される、左右逆になったコースを走る『マリオカート』シリーズのゲームモードは何でしょう?
マリオカートをやった事がある人ならすぐに分かっただろう。答えは「ミラー」だ。文章を頭から読んでいくと、どこかのタイミングで「ああ、ミラーか」と答えを思い出す。その瞬間にボタンを押せば、あなたはこのクイズに正解することができる。(無論、他の人が押していなければの話だが)
問題を聞いて、どこかのタイミングで答えが分かって、ボタンを押す。これが早押しクイズの最も基本的なシークエンスだ。そこで未経験者のあなたはこう思っていることに気づく。単調で、無機質で、非生産的で……つまらないと。これがメンタリズムです。
でもちょっと待ってほしい。冒頭のクイズの答えを思いついたとき、あなたは「ミラー」という言葉を思い出した。だが本当にそれだけだったか?あなたはその時、ミラーの3文字だけではなく、かつて遊んだマリオカートの記憶――ひたすらタイムアタックに打ち込んだこと、1位のときに限ってキノコやトゲゾーに連続で襲われてめっちゃイライラしたこと、風船を膨らませるべくDSのマイクに息を一生懸命吹きかけたこと、壁や天井を走れる新作にびっくりしたこと、キャラ差は無いように見えて実はファンキーコングがちょっとだけ速いということ(これはマイナーかもしれない)――がいっぺんに頭に蘇ってきたはずだ。蘇ってこないなら今からでも遅くないからマリカーを買ってくれ。やっぱり名作はいつ遊んでも面白いから。すなわちあなたは「150CCをクリアするとミラーが出てくる」ということをただ脳内に知識として保管しているわけではなく、色々な思い出や関係のない感情とびっしり連結した記憶の網の一箇所に固定している。だから、クイズの答えを思い出すことはあなたの人生を思い出すこととリンクしているのだ。
極論を言ってしまえば、クイズの問題というものはすべて誰かの人生をなぞることに帰結すると思う。事象は、人間によって規定されて初めて知識たりえるからだ。そうしてできた問題を、自分の人生という手札をうまく使って処理していく。10人いれば10人が、全く違った人生を歩んできている。だからクイズのボタンに10人がつけば、各々が多彩きわまりない手札を使って全力で問題に答えようとする。僕はそれが楽しくてクイズをしている。ちなみに極まってくると先述の「記憶の網」が全てクイ研の部室の中の記憶だったりするが、そういう状況になる頃にはもうクイズに洗脳されきっているはずなのでここでは考えないことにした。
一夜明けて
足を肩幅に開いて、腕はだらんと垂らす。
腕を振る。
目はどこも見ていないが、実はどこか一点を見ているのかもしれない。
腕を振る。
信号が青になり、スクランブル交差点が人で埋まる。
腕を振る。
コルチカムが咲き乱れ、香りが鼻をつく。
腕を振る。
電車が通り過ぎる音がする。振動が足に伝わる。
砂漠に横たわり空を見上げる。オリオン座は蠍から逃げているのかもしれないが、蠍を追いかけているのかもしれないじゃないか。
ミンタカが緑に光る。砂はすべて消えた。
歯車はどれ一つとして噛み合っていない。なのに時計は正しい時刻を指している。秒針の音に懐かしさを感じる。総武線は千葉駅を通過するとふわりと宙に舞い上がり、傷だらけの蛹へと姿を変えた。